「歯周病の新しい治療器がある」と患者さんから聞かれることが、2026年に入って増えました。ブルーラジカルP-01のことです。東北大学が開発し、厚生労働省が「歯周炎の治療」を目的に承認した装置で、これまで手術しか手がなかった深い歯周ポケットを、削らず切らずに殺菌します。
ただ、ネットの情報は導入した医院の宣伝が中心で、費用の相場や「自分に必要なのか」が分かりにくい。この記事では現役の歯科医師として、仕組み、治験の結果、1本あたりの費用、保険が使えるかどうか、神奈川で受けられる医院まで、診療室で患者さんに説明するのと同じ内容で書きます。
ブルーラジカルP-01とは|歯周病を「殺菌して治す」世界初の承認機器
ブルーラジカルP-01は、東北大学大学院歯学研究科の菅野太郎教授の研究をもとに、大学発ベンチャーの株式会社ルークが製品化した歯周炎治療器です。2023年7月に医療機器の製造販売承認を取得しました。承認番号は30500BZX00165000。「重度の歯周炎を治療できる医療機器」として承認されたのは、この装置が世界で初めてです。
仕組みは3つの組み合わせで動きます。
- チップの先から3%の過酸化水素を歯周ポケットの中に流す
- そこに青色の光(可視光)を当てる
- 光と過酸化水素の反応で「ヒドロキシルラジカル」という強い酸化力を持つ分子が生まれ、ポケットの奥のバイオフィルム(細菌のかたまり)ごと殺菌する
これに超音波の振動を重ねて、歯石とバイオフィルムを同時に壊します。従来の歯周治療は「スケーラーで歯石をこそげ取る」物理的な方法が中心でした。歯石は取れても、歯の根の表面に残った細菌までは落としきれない。ブルーラジカルは、その残った細菌を薬と光で叩く発想です。
効果は?治験で分かっていること
承認の根拠になった治験では、術前に6〜9mmあった歯周ポケットが、治療後に平均4.6mmまで浅くなったと報告されています。歯周ポケットは3mm以下が健康、4mm以上で歯周病、6mm以上は重度の目安です。6〜9mmの歯を4mm台まで戻せたというのは、従来の歯石除去だけでは届きにくかった水準です。
超音波スケーリング単独と比べた場合、歯のぐらつき・歯ぐきの腫れ・排膿(膿が出る状態)のコントロールでも上回ったとされています。対象は、歯周病の重症度分類でステージⅢ〜Ⅳにあたる重度の歯周炎です。
正直に書くと、長期のデータはまだ多くありません。承認は2023年、導入医院が増えたのは2025年以降です。5年後・10年後に歯を残せていたかというデータは、これから出てきます。歯科医師向けの解説論文は『歯界展望』143巻5号(2024年)に掲載されているので、詳しく知りたい方はそちらを。
従来の歯周病治療との違い
| 従来の治療(歯石除去・SRP) | 歯周外科(フラップ手術) | ブルーラジカルP-01 | |
|---|---|---|---|
| やること | 器具で歯石とプラークを削り取る | 歯ぐきを切り開いて根の表面を直接掃除する | 過酸化水素+青色光で殺菌しながら超音波で歯石を落とす |
| 向くポケットの深さ | 4〜5mm | 6mm以上 | 4mm以上(特に6mm以上の深いポケット) |
| 麻酔・切開 | 麻酔は場合による。切開なし | 麻酔あり。切開・縫合あり | 麻酔は場合による。切開なし |
| 保険 | 適用 | 適用 | 適用外(自費) |
| 1本あたりの費用の目安 | 数百円〜(保険3割負担) | 数千円〜(保険3割負担・部位による) | 11,000〜16,500円(税込) |
臨床の実感を書くと、SRP(歯周ポケットの中の歯石除去)を2〜3回やっても6mm以上のポケットが残る歯が、口の中に2〜4本ある患者さんは珍しくありません。これまでの選択肢は「手術をするか、経過を見ながら維持するか」の二択でした。ブルーラジカルは、この二択の間に入る第三の手です。
費用の相場|1本16,500円が中心、4本で6万円台
2025年末の時点で、ブルーラジカルは保険が使えません。医療機器の承認は取れていますが、保険診療の対象にはまだなっていないためです。費用は医院ごとに決められていて、複数の導入医院の料金を見ると次の範囲に収まります。
- 1本あたり11,000円〜16,500円(税込)が中心。16,500円の医院が多い
- 1本目18,000円、2本目以降は1本ごとに11,000円を加算、という医院もある
- 1回の来院で治療できるのは4本まで、としている医院が多い
- 初診のカウンセリングと検査で22,000円を別に取る医院もある
つまり、6mm以上のポケットが4本ある人なら、1回の治療で44,000〜66,000円。10本以上あると16万円を超えます。歯石除去や定期メンテナンスは通常どおり別料金(保険)です。
費用を抑える手として、医療費控除があります。ブルーラジカルの治療費は医療費控除の対象です。年間の医療費が10万円を超えた分は確定申告で税金が戻るので、領収書は捨てずに残してください。
どんな人に向いていて、どんな人には向かないか
向いている人
- 歯石除去を何度か受けたが、6mm以上の歯周ポケットが残っている
- 歯周外科(手術)を勧められたが、切りたくない
- 糖尿病や心臓の病気があり、手術のリスクを避けたい
- 歯を抜くと言われた歯を、もう少し残す手がないか探している
向かない人・まだ必要ない人
- 歯周ポケットが3mm以下で、歯みがきで血が出る程度の初期の歯周病。この段階なら保険の歯石除去と歯みがきで十分戻ります
- 歯を支える骨がほとんど残っていない歯。殺菌しても骨は戻らないので、抜歯を検討する場面です
- 治療後の歯みがきと定期メンテナンスを続けるつもりがない人。ブルーラジカルは「殺菌して仕切り直す」治療で、その後の管理をやめれば細菌はまた増えます
診療室でよく話すのは「この治療は魔法ではなく、深いポケットをリセットする道具」だということです。リセットしたあとに毎日の歯みがきと3〜4か月ごとのクリーニングが続いて、初めて歯が残ります。
治療の流れ
- 検査:歯周ポケットの深さ、出血、レントゲンで骨の状態を確認。ブルーラジカルが必要な歯を選びます
- 通常の歯周基本治療:まず保険の歯石除去とブラッシング指導。ここで改善する歯は、ブルーラジカルを使いません
- ブルーラジカルの照射:残った深いポケットに1本ずつ。1本あたり数分、1回の来院で4本まで
- 再評価:1〜3か月後にポケットを測り直し、改善を確認
- メンテナンス:3〜4か月ごとのクリーニングで再発を防ぐ
副作用として一般的なのは、治療後の一時的なしみる感じや歯ぐきの違和感です。切開をしないので、腫れや痛みは手術に比べて軽いのが特長です。
神奈川県で受けられる医院|約45医院、厚木・海老名にはまだない
販売代理店の株式会社エーゼットが公開している導入医院一覧によると、神奈川県内の導入医院は2026年5月時点で約45医院です。横浜市・川崎市・藤沢市・相模原市・鎌倉市に集中していて、県央では伊勢原市、秦野市、平塚市、座間市に1〜2医院ずつ。厚木市と海老名市には導入医院がありません。
全国では導入医院が500件を超えています。お住まいの地域の医院は、エーゼットの導入医院一覧(az-ltd.co.jp)で都道府県ごとに探せます。受診前に「1本いくらか」「初診料や検査料は別か」「1回に何本までか」の3点を電話で聞いておくと、当日に金額で驚くことがなくなります。
よくある質問
保険は使えますか?
2025年末時点で使えません。全額自費です。医療費控除の対象にはなります。
痛いですか?
切開をしないので、手術に比べて痛みは軽いです。ポケットが深い歯には局所麻酔をして行う医院もあります。治療後に一時的にしみることがあります。
1回で治りますか?
1回の照射で殺菌はできますが、歯周病そのものは「治って終わり」ではなく管理を続ける病気です。再評価で改善を確認し、その後は3〜4か月ごとのメンテナンスに移ります。
抜歯を勧められた歯でも受けられますか?
骨がある程度残っていれば選択肢になります。骨がほとんどない歯は殺菌しても支えが戻らないので、担当医とレントゲンを見ながら判断してください。
子どもや妊娠中でも受けられますか?
対象は重度歯周炎の成人です。妊娠中の方は担当医に相談してください。
まとめ
ブルーラジカルP-01は、深い歯周ポケットを切らずに殺菌できる、承認済みの新しい治療器です。治験では6〜9mmのポケットが平均4.6mmまで改善し、手術と経過観察の間に入る選択肢になりました。費用は1本11,000〜16,500円で保険は使えず、4本なら6万円前後。向いているのは、歯石除去をしても6mm以上のポケットが残る人です。
逆に、初期の歯周病ならこの治療は必要ありません。まずは保険の歯周病検査と歯石除去から。歯周病の基本については歯周病の原因・予防・治療法と歯周病・口臭ケア完全ガイド2026にまとめています。全身との関係が気になる方は糖尿病と歯周病の関係も読んでみてください。
参考:東北大学医療系メディアLIFE「低侵襲・高効率で新たな歯周病治療 ラジカル殺菌治療器が社会実装へ」/株式会社エーゼット「ブルーラジカルP-01 導入歯科医院一覧」/歯界展望143巻5号「新規歯周病治療器ブルーラジカルP-01 研究開発の学術的背景と研究結果の解説」(2024)。費用は2025〜2026年の導入医院の公開料金をもとにした目安で、医院により異なります。

コメント